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第2話 「開袋驚喜」
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……夕刻の少し前
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……人形宿舍内
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P7はわずかなカーテンの隙間から注意深く窓の外を観察すると、P7の記憶する限りで基地は最高に賑やか―――あるいは最も混沌としていた
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P7
うわぁ!FNCのやつやるわね!騒ぎに乗じて倉庫からあんないっぱいチョコレートを!
P7
ほら、走って!ああもう、チョコレートを落っことしたチョコレートを拾いに行ってんじゃないわよ、すぐにマカロフに取り押さえられちゃうわ!
P7
……あ、マカロフに捕まった…やれやれ、FNCったら元気ね。チョコレートを追っかけてきたベクターの顔にぶちまけてるじゃない!
P7
……って違う違う。こんなお芝居見てる場合じゃないわ!
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P7は部屋を行ったり来たりしながら、両の目でまじまじと戦術タブレットを見た。画面上のトピックが矢継ぎ早に更新されていく
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書き込み
『外の混乱をご覧ください、病気の人形があちこちを駆け回り、治療を拒否しています!』
書き込み
『ああ、あれはS.A.T.8でしょうか?カボチャの後ろに隠れれば見つけられまいという考えたのでしょうか?皆様ご覧ください、我らがメディカル小隊先鋒のP90が電光石火でカボチャを吹き飛ばし、S.A.T.8を確保しました!』
書き込み
『おお!いま私のドローンのカメラが箒に乗って逃げようとするF1の姿を捕らえました!ですが甘い、その瞬間すぐさま64式が箒に乗ってF1を追跡します!F1加速する!F1コーナリングだ!F1柱にぶつかりました!これはもはや大人しく治療を受けるほかありません!』
書き込み
『あぁ~っと!F1を捕らえた64式が空中でブレンテンと接触だぁ!ブレン、F1を連れて逃亡を図ります!彼女たちが速度を上げたぞぉ!64式次の分かれ道で彼女達を捕らえることは出来るのか!』
書き込み
『私のドローンが現場から生放送してるから、目を離すなよ!それとレスは控えるように、レスした奴皆からのプレゼントをお待ちするかんね!』
別の人物からの書き込み
『MDR、煽ってんじゃないわよ!捕まえるもんか!私はこの基地のために血を流してるのよ!アンタらなんか捕まえられっこないわ!』
書き込み
『先ほどのメッセージを書き込んだIPはブロックいたしました!ゆけ、P90よ!ああ、基地の平和のために、さらば心の友よ……』
P7
な、何が起こってるの、基地でパンデミックが起こってるってこと…?
P7
匿名掲示板の書き込みはおっかないけど、P90の小隊が治療にあたってるってことかしら?まさか感染した人形を廃棄するなんてことはないわよね!?スプリングフィールドさんとIWSさんはどうしてP90が捕まえるのを手伝ってあげないのかしら……
P7
しかも窓の外の皆の表情ったらすごく怖いし……うぅ、私は感染なんてしたくないわよ……
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P7は再び頭を低くして自身の両手を見ると、袖を引っ張って手を隠した。しばらくそうしていたが、致し方なく行動を開始した
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P7
洗っても洗っても落ちないし、人間はどうしてこんなもの買えるの?
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P7はベッドに座ると、ため息をついた。
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P7
こんな所からは出て行かないと、きっと感染した人形たちが捕まえに来るわ、そしてその後で私のコアを……うぅ~…
P7
そ、そうだ、指揮官!指揮官ならこのおかしな病気をどうやって解決できるかきっと知ってるわ!
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ピーッ……ピーッ……
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……時間は戻って午後
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基地広場の一角にて
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スピットファイア
M1919を捕まえて試着室から出てきた79式も感染しているなんて、彼女喚きながら79式を医務室まで連れていきましたが……
ウェルロッドMkII
ただ基地外周を突破されただけで済んだのは幸いでした。しばらくは秘密のまま解決したいですから。基地の皆さんは鉄血が侵入しているという事情は一切知るべきではありません
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ウェルロッドが指令室に戻りアーキテクトの権限を切断する準備をしていると、通信機が鳴った
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アーキテクト
そんなこというの?ウェルロッド、そんな風にマスコットを罵るべきじゃないなぁ、わかってる?
アーキテクト
改めていうけど、私はいまアンタらのデータバンクに繫がれてんの。今日のアンタらの言ってることはみんな偶然起きた事よ
アーキテクト
ええ?そんな慌てないでよ。面白い情報があんだけどさ、聞きたくない?
アーキテクト
アンタってやつはどうして最後まで人の話聞かないかなぁ!
アーキテクト
マジよマジ。私はアンタらの基地がどういう状況なのか教えられるわ
アーキテクト
ひょっとしたら……アンタらが調べてるおかしな病気についても突き止められるかも
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スピットファイアはウェルロッドの方を向いて目配せすると、軽く頭を振った
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アーキテクト
ふふん……アンタらのお利口さんな頭をちょ~っと回転させてごらんなさいよ。どうやってグリフィンに突然鉄血の散兵が侵入してきたか考えてみて
アーキテクト
でもでもぉ、鉄血の中の「アルケミスト」ってやつのこと、アタシは特によく知っててさぁ
アーキテクト
そうそう、アイツいっつも変わった方法で敵を拷問しててさぁ。マ~ジで嫌な奴だよねぇ、キャハハ
アーキテクト
アルケミストはもうボカーン――ってしたわけだけど、でも私が思うに鉄血にはアイツのダミーの一つや二つあってもおかしくないでしょ
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ウェルロッドとスピットファイアは互いに視線を交わした
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スピットファイア
私たちにそんなことを言って、あなたにどんなメリットがあるのかしら?
アーキテクト
でも、アンタたちがやらかすとこ見れるのは……ま、楽しみかな
アーキテクト
……わぁ、チョイ待ちチョイ待ち!怒らせるつもりで言ったんじゃないって、真相を知ってる映画の悪役みたいにしただけっしょ?
スピットファイア
……という事は、あなたの寄こした情報は偽の情報だと理解しても?
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スピットファイアは黙ってハンドガンに弾を込めた
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アーキテクト
要するに、私はアンタたちが伝染病であたふたするのが見れれば十分なワケ。この情報はその等価交換と思ってよ
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スピットファイアは数秒沈黙した
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スピットファイア
アーキテクトのいう事を全てを信じてはいません、所詮彼女は鉄血ですから……ですが基地に鉄血の雑兵が侵入したというは既定事実です。ならばこの近くで本当に彼女たちのアジトを見つけることが出来るかも――
ウェルロッドMkII
それに『アルケミスト』という名……まさにウィルスを作っている元凶のようではないですか!
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それと同時刻
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指令室の密室にて
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指揮官
だがお前がアルケミストの名を挙げるとはな?私が得ている情報では、お前は爆発しか知らないバカ娘だと思ってたんだが
アーキテクト
な、なんでよ!アンタたちは情報を更新すべきね!早いとこ『アーキテクトちゃんは冷静でエレガントな知的慈悲深レディ』って書き換えなさい!
指揮官
オーケー、私がここから出たらすぐにその言葉を書き加えよう。しかしながらだ、お前はまだ私の質問に答えてない
アーキテクト
答えっていっても何だろうねぇ……人生にはこんな風なサプライズがこんなにも溢れてるってこと、これはグリフィンが私に教えてくれたことよ
アーキテクト
けどアンタも自分の部下に伝染病を移すだなんて、けしからんわね
指揮官
今現在、不実で追放されているというのは真実だが……ああ、伝染病のことは胡散臭いと思うが、私はいま閉じ込められてるし、どうしようもない
アーキテクト
フフン、私の助けが必要かしら、グリフィンの指揮官!
アーキテクト
ちょうどず~っとアンタの指令室に連絡とりたがってる信号があるのよね。うっさいのは嫌いだけど、今なら…アンタの助けになるかもね?
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基地外周
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特捜小隊の隊員達はカバーポイントの影にいた
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ウェルロッドMkII
これは運命のいたずらとでもいうべきでしょうか……!
スピットファイア
はい、基地の周辺に鉄血の新しいアジトがあるなんて思いもしませんでした。それにリーダーが本当にアルケミストのダミーだなんて
ウェルロッドMkII
身を潜めて進めば大丈夫でしょう。電子マップの解析も既に完了してます
アルケミスト
おっと、新しい客人かと思えば、ドブ鼠が何匹か逃げてきたか
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ウェルロッドは押し黙ると、少しも意外そうにもせず、通信機から聞こえる傲慢そうな何者かの声に耳を傾けた
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アルケミスト
――だが、お前達が私のとこまで辿り着けたらまたお話ししてやるとするか
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示し合わしたわけでもなかったが彼女たちは同時にハンドガンをぎゅっと握った
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良く響く装填音は舞い踊る木の葉の中にかき消える
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