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第8話『この世界最後の雨』(前編)
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……バン!バン!
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……ドーン!
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アナ
ようやく私が全てを明かして、全てを終わらせる時が来たわ
アナ
でも終わりといえば、ずっと考えてる問題があるの
アナ
もし世界の終わりを計画せざるを得なくなったら、あなたはどうする?
アナ
暴力的な虐殺、ゆっくりとした苦しみ、上品で洗練された儀式……
アナ
ああ……私が思うに、これこそ究極の問題であり、私たちの心の最も本質的な側面を反映するんだと思うわ
アナ
この世界の究極の秘密は、私たちがどうやって死ぬのかということ
アナ
私のすることをしっかりと見て、私のために全て覚えておいてほしい……
アナ
私についての全てを……
アナ
さあ、目を覚まして、ジル
ジル
……
ジル
あ……
ジル
アナ……
ジル
よかった、やっと会えたわね……
ジル
でもここはどこ?
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……
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ジル
私……病院にいるの?
アナ
あなたの意識があなたをここに送ったのよ
アナ
あなたはまだ私達の約束の場所を覚えてるみたいね
ジル
うん、あなたの人生の大部分は病院に横たわってるって言ってたから……
ジル
でも……あなたはそれがどの病院だかまでは言ってなかったけど
アナ
大丈夫よ、その事だけ覚えてくれてればいいわ
アナ
おはよう、ジル
ジル
おはよう……
ジル
まったく、私はこの挨拶を3年間聞いたことなかったわ
ジル
でも元気そうね、アナ
ジル
それにしても何が起こったのかしら……私の顔馴染みが皆あなたを捜してたのは?あなたは何をしたの?グリフィンシティはどうなったの?
アナ
ゆっくり説明するわ
アナ
ジル、あなた私たちがどんな風に出会ったか覚えてる?
ジル
もちろんよ
ジル
私が12歳の時にあなたに会ったわ、いえ、あなたを聴いたというべきね……
ジル
その当時の私は、両親のクソみたいな離婚合意のせいであなたが出てきたんだって思ってた
アナ
それは本当の記憶なの、ジル?
アナ
私達が初めて会った時、何があったのか本当に覚えてる?
ジル
私……
ジル
……
ジル
覚えてない……
ジル
おかしいわね、もっと前のことだってはっきり思い出せるのに
アナ
それはそう設定されてるからよ
ジル
どういうこと?
アナ
それは全て設定なのよ、ジル
アナ
あなたの過去、私があなたを呼ぶときの名前、G28のニックネーム、そしてこの世界の全て……
ジル
何を言っているのかわからないんだけど……
ジル
アナ、あなたは誰なの?
アナ
ジル、あなたはこの世界が好き?
ジル
私は……少なくとも嫌いじゃないけど?
アナ
そうなの……[ピー]するくらい欲求不満なのに?
ジル
何の事よ?違うわ!もちろんそんなことないわよ!何てこと言うのよ
アナ
ガビィ(Gaby)が誰なのか覚えてる?
ジル
ガビィ? ……誰のこと?
アナ
あなたに真実を伝える時が来たのね
アナ
ジル、この世界は不完全よ
アナ
あなたもそう、私もそう、全てが欠けているの
アナ
全ては完成された真実の世界から分離したものなの
ジル
何を……どういうことよ?
ジル
この世界は……真実じゃない?
アナ
どう答えたら信じてもらえるかしら?
アナ
ただ私が言えるのは……
アナ
少なくとも、ここは真実の世界じゃないってこと
ジル
……あなたが何を言ってるのかわからないわ……
ジル
あなた……私が欠けているって言ったわよね?
アナ
ジル、情緒不安定になると突然消えて、その後別の場所に移動したりしたことはない?
ジル
私……経験したことがあるわ
ジル
一度卒業式で代表スピーチをしたことがあって、みんなの前に立ったら、パニックになっちゃって……
ジル
それから私は意識を失ったわ、そして次の瞬間、私は家に横たわっていたの……ちょうどそれみたいね
アナ
それこそが、あなたが私から奪った能力よ
ジル
私が……あなたの能力を奪った?
アナ
……ナノマシンフォーム
アナ
これがあなたの理解を超えていることは分かるわ
ジル
「ナノマシンフォーム」……
ジル
うん、聞いたことあるわ、SFか何かのB級作品で言ってた「量子」みたいなものかしら
アナ
そうね、少なくとそう思ってくれれば拗れないわ
アナ
でも、私はあなたに感謝したいの、私はやっとこの世界で実体を得たわ
アナ
私はナノマシンみたいな存在でいるのも好きだけど、でもたまには普通の人になるのも悪くないわね
アナ
興味深いことに、私はこの偽りの世界で真実を経験したわ、ほんの数時間の短い間だけどね
ジル
でも、もしあなたが正しいならどうやって私たちは本当の世界に戻ることができるのかしら
ジル
あなたの言った通りだとしたら……私たちはずっとこの偽の世界に閉じ込められたままって事?
アナ
私たちは戻ることはできないの、ジル
ジル
どうしてよ?
アナ
私たちも偽物だからよ
アナ
あなたと私、全部偽物よ
ジル
どういうこと……偽物ですって?
ジル
違うわ!私はジルよ!そうじゃなかったら誰なのよ!
アナ
落ち着いて、ジル、ゆっくり話すから聞いてちょうだい
アナ
私たちの世界はもうすぐ終わりそうだけど、本当の世界で何が起こっているのか知ってる?
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……ジルは首を横に振った。
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アナ
何も起こっていないのよ、ジル
アナ
ただの平凡な一日というだけ
アナ
世界の終わりなんて無い、アースコンピューターも無い、砂の雨もない、私たちが苦心してるものは何もない
アナ
グリッチシティ(Glitch City)の普通のバーで、本物のあなたとあなたの友人、そしてグリフィンの人形がお酒を飲んでおしゃべりをしてる
ジル
ちょっと待って、あなたは何の話をしてるの、私たちの街はグリフィンシティ(Griffin City)って呼ばれてるはずよね?
アナ
真実の世界のグリフィンは戦術人形を主要な従業員とした民間軍事企業よ、1か月前にグリッチシティに来て試験的に任務を行っていたの
アナ
そして、ジルは1人の人形を酔わせてしまったわ、すると彼女の体を伝わって奇妙な電波が発生したの……
アナ
そして、これは本当の事だけど、ナノマシン体でしかないアナは、この電波に巻き込まれる形で彼女のメンタルモデル中に混ざり込んだ
アナ
その後、彼女のメンタルモデルはアナを彼女自身の意識と考え、クラウドマップはアナの記憶を読み取り、それから本体である彼女の記憶と融合したの……
アナ
そうして、クラウドマップに私たちの住む世界――グリフィンシティが作られたわ
ジル
そんな!そ……そんな馬鹿な!
ジル
あなたが言った通りだとしたら!私たちの世界の全ては、いま人形の頭の中にあるだけって事?!
アナ
理解が早いわね。そうよ、ジル、私たちは今彼女の心の中に住んでいるの
アナ
私たちの世界は彼女の偶然の酔いの副産物にすぎないわ
ジル
……私たちの世界が……ただの飲みの席から生まれたものだなんて
アナ
そうよ、だからこの世界は生まれた時から、消滅する運命にあるわ
アナ
あの人形の意識がゆっくりと目覚めているから、彼女はメンタルモデルの優位性を取り戻そうとしているわ。そしてクラウドマップは演算を通してこの事実をより合理的にしてしまうだけよ
アナ
ただし、一旦彼女が目覚めたら、私たちの世界は終わるわ
ジル
くそ……どうすれば……
アナ
もう時間がないわ
アナ
ジル、私がここにあなたを連れてきた理由がわかる?
ジル
どうしてよ?もちろんわからないわ
アナ
私の記憶で最も重要なのは誰かわかる?
ジル
わからないわよ……
ジル
ちょっと待って、たぶんだけど……
アナ
グロリアよ、あのアイドルの。彼女を覚えてる?
アナ
……なんて冗談よ!もちろん、あなたよ、ジル=スティングレイ!
アナ
躊躇ってるようだけど、ジル、本当に私があなたの事どれだけ好きなのか覚えていないの?
ジル
どのジルの事か聞いてもいいかしら?
ジル
もし私の事だったら、アナ、私もあなたの事は好きだけど、でも……
アナ
この世界は酔っ払った人形と本物のアナの記憶の融合したものに基づいているわ
アナ
あなたはガビィを覚えていない、フォアを覚えていない、私がベッキーに対してどうだったかとか元カノの記憶もね……
アナ
だから本当のアナが巻き込まれた後のことは、いくらか記憶から失われるかもしれない――だから私は不完全だしあなたは不完全なのよ
ジル
それとあなたがしている事とどう関係があるの?
アナ
メンタルモデルは世界の破壊の合理性を計算する必要があるわ、それはアナの記憶に基づいて選ばれないといけない、そこで最も強い否定的な感情に目がつけられたわ、世界破壊のロジックの根底に作用するようにね
ジル
だから私を選んだ……?
ジル
私……本当の世界の私の最も強い否定的な感情って?
アナ
もしそれが私とあなたが知っている時と場所に限るとしたら
アナ
かつて、犬でいっぱいの会社があなたのバーに来て、バー中が犬のオシッコと糞の臭いまみれになったことがあったわね
ジル
そうね、それについては私も同じことを感じることが出来ると思うわ
アナ
さらに別の時、あなたがガビィと口論した後、自分がまるでクソみたいだって言ったわよね
アナ
両種の感情が混ざって一つになったの。わかった?だから私達の世界が消滅しようとしてるのよ
ジル
そんな!全部私の責任だって言うの?わ……私にはその記憶さえないのに
アナ
その通りよ、ジル、あなたの最も強い否定的な感情がアースコンピューターに取り込まれたおかげで、あなたは元気を取り戻してるのよ
アナ
私はあなたを責めたりしないわ……結局どんなあなたであっても可愛いしね
アナ
私がただ言いたいのはね、ジル……
アナ
……今あなただけが世界を救うことができるってこと
ジル
何ですって?私が?
アナ
そうよ……
アナ
あなたは承知しないと思うけど、でも……私はあなたに言わなきゃいけない……
ジル
どうして?世界を救うのに大きな代償でもいるのかしら?
ジル
まあ想像できなくはないけど……もしかして私が犠牲になったりするのかしら?だったら少し考えさせて、私が承知しないかどうかはわからないわよ
アナ
確かにあなたが犠牲になるわジル
アナ
ただし、真実の世界のジルがね
ジル
何で?!!
ジル
あ……あああ、あなたは何を言っているの?
アナ
ジル、私はあなたに真剣に聞いているわ
アナ
あなたが真実の世界に行くためなら……あなた自身を取り替えることは出来る?
ジル
あなたは……私に何してほしいの?
アナ
これこそ私がずっと取り組んでいた計画よ、これをするために私は世界を混乱にさせるのも厭わなかった
アナ
私はベッキーとアーキテクト、ギリアンが研究してたこの世界のホワイトナイト、そして鉄血とグリフィンのテクノロジーを利用したわ
アナ
最終的に、私は一つの方法に辿り着いたの、最後の手段だけどね……
アナ
それは、本物のアナの身体のナノマシンを、もう一度あのグリフィン人形にマッチングさせて電波を出させること、そうすることで2つの世界の間のアクセスポートを再び開くわ
アナ
そして、あなたのナノマシンフォームをあちらの世界に降臨させることができる、ほんの数分の間だけだけどね
アナ
その時になったら、あなたは別の世界の自分自身を抱きしめて、それから私があなたのために残した電波兵器を解放するだけでいいわ
アナ
あなたの記憶は神経波の形でもう一人のジルの脳に完全に転写することができるわ
ジル
な……なんてデタラメな……ちょっと誇張し過ぎよ……
ジル
そうなったら、本当の世界のジルは……どうなるの?
アナ
もちろん、彼女の体には何も問題は起きないわ
アナ
あなたが別の世界の記憶になるだけよ……もはや存在しないものとしてね
ジル
くそ!
ジル
そんなこと出来ないわよ、アナ!これと私自身の存在が消えるのとどう違いがあるのよ?
アナ
私もこんなことになるなんて思ってなかったのよ、ジル
アナ
けれど、もしあなたがこれをしなかったら……私たちの世界が完全に破壊されたあと、全ては本当に終わりよ
ジル
でも……記憶を残したところで、それでどうするのよ?私だけが生き残っても……
アナ
あなただけで十分よ、ジル
アナ
私は生き残るために最善を尽くしたけど、かすかな希望の光がある限り、諦めたくない
ジル
アナ……
ジル
でもこれじゃあまるであなたが……私一人のために消えるみたいじゃない……
アナ
本物のアナはまだ眠っているの、私は彼女が何を考えているのか分からないけど……
アナ
でも私は……偽者の、不完全なアナだから……
アナ
私はあなたのことを気にしているだけよ、ジル。この世界のあなたを、本当の世界の誰でもないあなた……
ジル
わからないわ……アナ……本当に……
アナ
アクセスポートが開かれたわ、ジル、今あなたを現実の世界に送るわ
アナ
あなたは一歩踏み込むこと、私の願いを完遂すること、あるいはただ一周して戻ってきて世界の終わりを迎える事だって出来る
アナ
私はあなたに強制しないわ、ジル、あなたが何を選んでもずっと一番可愛いジルだもの
ジル
だめよ!アナ、もう一回話し合いましょう!
ジル
わ……私には考えつかないけど、他にも方法があるはずよ!
アナ
私の願いは伝えたわ、世界は破壊されても、あなたが存在していることが唯一の証拠になる
アナ
私がしていることは誰かの為にすることでも、理想でも、信念でもないわ……
アナ
私は自分のためだけにこれをするの、私は完全にいない存在にはなりたくないから
アナ
たった一人だけが私を覚えてくれれば……
アナ
あなたが……私を覚えている限りはね、ジル……
アナ
私が本当に死ぬことはないわ……
ジル
アナ……ア――!
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……ブゥン! !
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システム
転送が完了しました
システム
良き旅を、ジル=スティングレイ
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……
——————
アナ
お別れね、ジル
アナ
あなたが戻ってくるかどうかに関係なく、これでお別れよ
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……ズドーン!
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Super-Shorty
アナ、出てきなさい!逃げられないわよ!
アナ
おはよう、みんな!
アナ
ちなみに、私は逃げるつもりは無かったわよ、ただ少し時間が欲しかっただけ
ジェリコ
あなたにやらせるわけにはいきません!
ジェリコ
ギリアンが我々に全て話しました、あなたの計画が何であるか!
アナ
私があなたに言うように彼女に言っといたからね、あなた達はこれを知る必要があるわ
ステラ
お前はわざとアーキテクトをに私に従うようにしたが、本当はこの瞬間を待っていたとはな!
アナ
この小さな小さな世界の特別なルールを使っているだけよ、私の目標の実現の為にね
ドロシー
アナ、これは全て本当なの?
ドロシー
あなたが言ったこと……あなたと私……そしてこの世界、全部が……
アナ
ベッキー……私たちは皆、誰かの想像から生まれた只の架空のキャラクターよ
アナ
この世界が虚構だったとしてそれを気にするのかしら?
IDW
でも、お前がしていることは間違ってるニャ!
アルマ
ジルを使って別のジルを消そうだなんて!あなたは彼女にそんな重い責任を負わせるつもりなの!
アナ
私は可能性を示しただけよ、最終的な決定はジルの手に委ねられているわ
アナ
それがジルであろうと他の世界のジョーであろうと、彼女達がこの世界の運命を決める者になるわ
アナ
まったく、私がもう一人のアナを消すかどうか選べたら、もう少し気分が良かったのだけど
セイ
アナ……
セイ
私たちはただ運命を受け入れるべきよ
アナ
私にはそんなこと出来ないわ、セイ
アナ
それが私が望むものではない限りは、私はそれを決して受け入れたりしない……
アナ
好きなようにやるだけよ
デイナ
お前の考えには同意しよう、確かに言うとおりだが、本当に決めるのはお前じゃない
Super-Shorty
ジル……ジルはどこよ!
IDW
アクセスポートが開かれたのニャ、ジルさんはもうあっちの世界に行ってしまったのニャ!
アナ
私は彼女に選ぶ機会を与えたわ
ステラ
だが、お前が何を考えているのか分かるぞ、アナ!
ステラ
ジルがアクセスポートに入ってすぐに、お前はアクセスポートを閉じてジルに選択肢がないようにするつもりだろう!
アルマ
彼女が選ばないって事をあなたがわかってるのは知ってるわ
アナ
だから私を止めに来たのね?
アナ
正直なところ、私はこれをする決心が出来てないわ
セイ
とにかく、私たちはあなたにアクセスポートを閉じさせたりしないわ!
ドロシー
ジルは間違いなく戻ってくるよ!それまで私達でアクセスポートを維持するの!
アナ
アクセスポートを維持するためのコストは非常に大きいわ、そして実世界の時間の流れは私達のものよりはるかに速い
アナ
例え彼女が戻ってきたとしても、世界がどうなってるかはわからないわよ
デイナ
お前を叩き直せば、少なくともお前が言うよりは良くなると確信はしているがな
アナ
いいわ、試してあげる
アナ
この世界の私のダミーを全て見つけてそれを全部破壊するのだとしたら、大変な仕事であると言わないといけないわね
アナ
もしかしたらその前に、私がアクセスポートを閉じるかもしれない
アナ
もしかしたらあなた達にまだ勝機があって、ジルはこの世界の存在をあきらめず、帰ってきてあなた達と最後のパーティーを開くかもしれない
デイナ
ジルは戻ってくるさ、アナ
アナ
これで終わりにしましょう
アナ
ジルが私達の運命を決めるか、それとも私達が彼女の運命を決めるか
アナ
終末の日が来る前に、せいぜい楽しくやりましょうか!