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第4話 「防腐剤」(後編)
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……鉄血のアジトにて
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アルケミスト
は…は、ダミーのボディじゃ、まだ今ひとつだった……か
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スピットファイヤは膝立ちになると、銃口をアルケミストの眉間に押し当てた
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アルケミストの白金の髪を乱しながら、要塞の前でそうしたように遠慮なく笑っていた
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……
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ピピッー一一!
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……
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スピットファイヤの指がまさにトリガー引こうとしていた時、突然の通信がその場の人形達を呆気にとらせた
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飛び出した通信映像には、P90とひな鳥のように引っさげられているP7の姿があった
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P90
ちゃんと通信繋がってる?それじゃあP7から説明ヨロシク――
P7
コホン……とりあえず、伝染病についてなんだけど、あれは……全部誤解よ!
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鉄血のアジトにいる誰もがきょとんとしていた。スピットファイヤは銃を収めると、呆然とウェルロッドと見つめ合う
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アルケミストは我慢できず、腹を抱えて笑いだした
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P7
今朝のことよ、今朝の早い時間に私はダイナーゲートにカリーナさんの化粧品セットを盗ませたの。SuperSASSの体に模様を書いてやろうとおもったわけ、あの子がキョンシーみたいに見えるようにね……
P7
で、私の計画は順調そのものだったわ!私は何日か前にカリーナさんが今日出かけるって情報をゲットしてたからね。それに今日出かける前に更に化粧をするってことも!
P7
本当に天の助けあってこそよね、テーブルの上には色とりどりの化粧品がそのままにしてあって、キャビネットを簡単に開けることだって出来たわ!
P7
そのあと私は私のダイナーゲート軍団を出動させて、SuperSASSが気付いてないうちにあの子の服とフェイスタオルにお化粧してやったの!体は無理でも顔にならつけられると思って!あぁ怖かったわ、TAC-50に追いかけられたりしたし!
P7
でもまさかSuperSASSが今日いつも着てる服を着ないで、ハロウィンの服を着るなんて!それに、アイツ任務に出撃する為に顔すら洗わなかったなんて、そんなことあるわけ!?
P7
要するにSuperSASSが任務に出ちゃってほんとにがっかりしたから、私は化粧品を捨てたの。その時不注意で手を汚しちゃったのよね、洗っても洗っても落ちなくて――
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パァン!とスピットファイヤが地面に発砲した
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通信映像の中のP7が縮こまっていると、P90が通信機に近づいてきた
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P90は深呼吸した
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P90
その時に私はちょうどP7がダイナーゲートに指示してるところを見たんだよ、SASSがいたずらされてるとは思わなかったけど……
P90
そのあと、私は歩哨の任務中だったんだけどあまりに退屈だったからさ、見張り場所を変えるときにP7の真似してドローンに化粧品を拾いに行かせたの、他のドローンたちにもそうさせて……
P90
元はといえばP7が持っていった化粧品をダメにしちゃってたから、わたしは隅っこに隠れてそれを整頓したってわけ。で、頑張ってコマンドを書いて、何体かのドローンたちに化粧品を持ってかせて……
P90
私マッピングは得意だからさ!そうしたらドローンの飛行ルートが基地全体をカバーできるようになって、目標を見つけたらすぐに降下して顔料を浴びせることが出来るようになったの!ふふん、P7はここまで精巧な計画は考えつかなかったみたい――
P90
そそそ、そのあとウェルロッドと一緒に歩哨の任務についたんだよ。ウェルロッドの真似して通りがかる人たちとおしゃべりしてたら、その……ドローンのこと……すっかり忘れてて……
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通信のP90の声がだんだん小さくなった。目も泳いでいて視線が定まっていない
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鉄血のアジトでは、この時点で笑いすぎて疲れているアルケミストの笑い声を除いて、ただ通信機から微弱な電子音が流れているだけがあった
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ウェルロッドとスピットファイヤは、急に何を言われたかさっぱり分からないという顔をしていた
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スピットファイア
つまりあれですか……基地でパンデミックなど発生しておらず、75姉さんも病気なんかではなく、全ては……カリーナさんの化粧品である……と?
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P90の声は蚊のように小さかった
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P7
うぅ……私たちが悪ぅございました……スピットファイヤ姐さん……握りこぶしを作る音がハッキリ聞こえております……
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鉄血のアジトに再び静寂が訪れる、この時にはアルケミストも口を閉じ、面白そうにこの茶番を見守っていた
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P7
P90、あんた全部白状した方が安全だって言ったじゃない……
スピットファイア
……お二人とも?、随分と文字が小さくなってしまってますね、そんなに言ってることを見られたくないのかしら?
P90
ごめんなさいごめんなさい私たちが悪かったですぅ……!
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ウェルロッドが身を起こそうとしたアルケミストを取り押さえた
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ウェルロッドMkII
確かに今回の伝染病騒ぎでは、このアルケミストは潔白でした。
ウェルロッドMkII
ですが皆さん、こいつはアルケミストと呼ばれてる以上、たとえ今回はウィルスをばら撒いていなかったにせよ、次に別のウィルスをばら撒かないとは限りません
ウェルロッドMkII
であれば……鹵獲して、基地で研究するのはどうでしょうか?
スピットファイア
ですが戻ったら……P7、P90。あなた達には条件を課します
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…………
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ハロウィン、深夜
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グリフィン基地にて
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グリフィンタレコミ掲示板のスレッドは短時間で埋まっていった、スレ立て主は、言うまでもなくあのMDRである
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MDR
『やっほ~、いらっしゃい。これは可愛い皆のMDRが激写した世にも珍しい驚天動地の写真だ!夕方にドローンで情報収集してるときに思わず撮ったやつだよ!グリフィンの人形なら要チェック!』
MDR
『ハロウィンの今日、私たちの知らないことが彼女達の間に起こっていたのだろうか?これからこのMDR自ら探りを入れてみるよ!実況中はくれぐれも書き込みをしないように――』
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…………
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スレッドの最後には、少しぼやけた写真が貼られていた、それぞれ違った笑顔を浮かべる5人が映っている
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――もちろん、アルケミストの浮かべているそれは軽蔑的な笑みであり、傍らのスピットファイアを不機嫌にさせたが、それもまたMDRのスレッドを盛り上げることとなった
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通りすがりのヒーロー
特捜小隊には感動しました、彼女たちは大切なものを守ったのですね……
ストロングコーラ
P7ったら馬鹿だよねぇ、最初のいたずらから失敗するなんてアハハハ
アンドロイドは電気豚を食べるか?
全く、こんなことやらかすなんてなんて!師父が任務から戻るまでは自分たちでは解決できないだろうって思いました……
タロット娘
ふむ、アルケミストは基地でどうしてあげるのがいいんだろう?私の占いが助けになるといいんだけど……
ダウナーフェアリーキング
あらあら、アルケミスト、アルケミストじゃない!これはまた一つ金庫が潤ったわね
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……午前0時
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指令室の密室にて。
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指揮官
誰かいないのか!私を出してくれ!0時になったぞ?もうハロウィンはおしまいだろ!
アーキテクト
これこそグリフィン隠し部屋の真の力よ。喉が潰れるくらい叫んだって誰にも聞こえやしないわ
アーキテクト
今日っていう日は本当にサイコー!しかも誰も私の権限をロックしに戻ってこないし、これぞ自由ね――
指揮官
目的を果たせなかったのだから、きっと気を塞いでるんじゃないかと
アーキテクト
ふふん、別に恨めしくおもってないわよ……言ったでしょ、たまにはこんなのも悪くないって
アーキテクト
あなたこそ、ハロウィンが終わったのに誰もあなたを解放しに来ないのが心配でしょうに